ぼくらの冒険譚SS――白昼

初夏のある昼下がりのことだった。
便利屋の青年、ロトの元を訪ねていたアニーは、あくなきにらめっこを繰り広げていた相手――帳面から視線を外す。そばにいる人の意識が自分たちから逸れたことを、なんとなく感じたからだ。
真昼の陽光を受けた黒い頭が、淡い光に包まれる。いつの間にやら子どもたちに背を向けていたロトは、熱心に何かを見つめているようだった。小首をかしげたアニーは、ペンを置くとゆっくり立ち上がる。魔術以外の何物にも興味を示さなさそうな青年が何を熱心に見ているのか、気になったのだった。
なるべく気配を消し、椅子に座っている彼に近づく。幼馴染の少年はおそらく「才能の無駄遣い」と心の中で嘆いていることだろうが、今のアニーには関係ない。椅子に座る彼の背後でつま先立ちになった。――そのとき、不愛想な声がかかる。
「才能の無駄遣いをすんな、問題児」
「あ。もう見つかった」
アニーは悪びれなかった。むしろ破顔一笑した。にひ、と妙な声を上げてロトの肩に手をかけると、そのまま前をのぞきこむ。氷海の色をした目が、迷惑そうに少女をにらんだ。
「なんなんだ。くっつくな」
「何見てるのか気になったんだもん」
「気にするな。というか見るな」
ロトは、虫を追い払うようなしぐさをする。それでもアニーは離れなかった。いつもなら服の袖で隠しているであろう、青年の腕輪を目で追う。そして、肝心なその手もとにもばっちり視線を注いだ。
彼が持っていたのは数枚の紙だった。大きさや材質からして便箋だ。そして、その上を走る流麗な文字に見覚えがあった。
「あっ、手紙……マリオンさんからだ!」
「見るなっつってんだろうが」
「何書いてあるのー? ねえねえ?」
「なんでもいいだろ! 離れろ、はっ倒すぞ!」
「いいよ、避けるから」
なんとかしてアニーを引きはがしたいロトと、意地でも離れないアニーは、しばらく文机のそばで攻防を繰り広げた。そして、少し離れたところからそれを傍観していた少年が、ひとりかぶりを振る。小さなため息が、白昼の便利屋に溶け込んだ。