024.永遠なんて

 人の寿命は長くて百年そこらだという。しかもそれはかなり文明水準の高い国に限った話であるそうで、さらに言えばこの事実を告げてくれたのが規格外の半獣人なのだからヴィータにとって受け入れがたいことであっても仕方がない。
 だが、それでも短いものだろう、と男は言う。
「だって考えてもみろ。どっかの怖い女なんて実際は百歳をとうに越してるぞ」
「そういえば、『銀(しろがね)』に言わせればセフィリアの奴も千年は生きてるらしいな」
 寿命百年に驚いたにもかかわらず、目の前の青年の指摘には素直にうなずくイクスティア王。だが、彼にしてみればそれとこれとは話が違う。
 ソラ、といういささか風変りな名を持つ青年は苦笑したあと手元のグラスを持ち上げる。
「でもま、長生きだから良いってこともないだろ。おかげであいつ、めちゃくちゃ飽きっぽくて大変なんだぞ」
 そりゃお気の毒、とヴィータは肩をすくめる。だがソラはおどけて返すこともせず、急に真顔になって続けた。
「永遠なんてロクなもんじゃないぞ、王サマよ」
 さりげないようでいてとげのある口調。それを聞いて初めて、ヴィータはソラが忠告をくれたことに気付いた。表情を引き締める。
「半獣である俺でも、これから先人間の何倍も長い時間を生き続けなきゃならないんだ。それすらもどこか途方もないものだと思うが……それでも終わりがある分まだマシだ。だが、おまえはそうじゃない」
 だろ? と言ってくるソラに、ヴィータはうなずいた。
 終わりのない生。否、正確に言えばいつかは終わりが訪れるのだろう。しかしそれは、元人間の感覚から言えば、それこそ永遠に近いものがある。考えただけでもめまいがしそうなほどに、長い時。
 だが。
「それでも、この道を行くと決めた以上、後戻りするつもりはない」
 ヴィータは青紫の目を細める。
「『萌芽の魔女』が役目を終える時まで、俺はそれを見守り続ける。そう決めた以上、放棄はしない」
 沈黙が流れた。
 だがややあって、ソラがふっと短い息を吐きだした。
「いいね。やっぱ、国の頂上に立つ人間ってのは器が違う」
 そんなふうにからかってから、青年はひらひらと手を振った。
「頑張れよ、ヴィータ。俺とリネは辺境から応援してる」
 天族と人間の血を継ぐいびつな青年の言葉に、古代の面影を残す国王は笑みを浮かべて答えた。