028.君と僕の赤い糸

「寒くなるから防寒具でも作ろう」と言い出したのは、はたして誰だったか。もはやそれを知る者はいないが、防寒具作りを引き受けたのは二人の少女である。
 北原晴香とミーナ・コラソン、交わるべくして交わった彼女たちは今、大量の毛糸玉の前にいた。
 晴香はそのうちのひとつ、赤い毛糸を手にとって、玉の端から伸びる糸を少し引っ張った。ちろちろと引っ張られて伸びていく糸を見ながら、彼女は呟く。
「運命の赤い糸、ってほんとにあるのかな?」
 その言葉にミーナが顔を上げた。編み棒を手に首をかしげる彼女に気付いているのかいないのか、晴香はそのまま続ける。
「もしあるなら、ちょっと見てみたいかも」
「見てみたいの? どうして?」
 ミーナが不思議そうに口を挟む。
 晴香は、毛糸を握っていない左手でぐっと拳をつくった。
「だって、そうすれば誰が誰とつながってるか分かって、人間関係で悩まなくて済むじゃない!?」
「え、ええー……」
 力説する晴香に、ミーナは少しばかり引いている。
 彼女は目をすがめて異国の血を持つ少女を見た。
「私は見えなくていいかも。だって、嫌な人とつながってたらげんなりしそうだし」
 それに、と呟いて少女は編み棒を睨み、もう一度晴香を見た。
「誰が運命の相手か、なんて、最初から分かってたら面白くもなんともないじゃない?」
――こうして、恋敵同士である二人の少女は、今日も平穏の裏で火花を散らす。

 これを近くの木陰からそっと見守っていた少女は、
「二人とも、なんのお話をなさっているのかしら……」
と首をかしげていた。