風が吹いている。
広い、広い草原を駆けるかのように風が吹いている。
その風の中に、一人の男が立っていた。無言で、ただ立っていた。すると、突然ひときわ強い風が吹いた。男はそれに手をかざし、口を小さく動かす。
「……風よ、わが声に答えろ」
すると、空気が渦を巻いた。本当に男の声に応えたかのようだ。男はそれを見ると、なおも続けた。
「おまえたちに、頼みたいことがある」
――ぴゅうっ。
鋭く、音が響いた。
その音に促されたかのように、男はただひとつの願いを口にする。
「あの子を、護ってやってくれ」
それを言い終えると同時に、男は倒れた。気を失っているのか、ぴくりとも動かない。その身体を、風は優しく包み込んでいた。